家族信託って何?メリット・デメリットについて司法書士が解説!

皆様、こんにちは。司法書士の竹本海雅(たけもとかいま)です。

前回は、認知症対策でよくお聞きする成年後見人制度と家族信託の違いについてお話しさせていただきました。前回のブログをご覧になられた方はご存じのように両者は全く違う制度となっております。そして、家族信託は信託法を根拠とする対策方法であり、この制度はとても複雑なものとなっております。
今回は、そんな家族信託について出来るだけわかりやすくお話しさせていただこうと思います。

家族信託とは?

前回の復習となりますが、信託には3人の登場人物がいます。それは、①委託者②受託者③受益者の3人です。そして、委託者が特定の財産の管理・運用を受託者に託し、運用の利益を受益者が得るという仕組みとなっております。
法的には委託者から受託者にその財産の「所有権」を移転することになりますが、受託者はあくまでも「受益者」のために財産を管理・運用・処分しなければならず、その利益を受託者が得ることはできません(信託法第8条)
そして、家族信託とはこの3者を家族で完結する仕組みにし、例えば不動産業をやっているお父さんが、息子さんにその不動産の管理・運用を行い、その家賃収入を受益者をお父さんに指定して、お父さんがもらうということです。

以上を図解するとこのような形となります。

どんな財産が対象になる?

では、具体的にどんな財産を信託の対象(これを信託財産と言います)にすることが出来るのでしょうか?結論から言いますと信託法にはこの信託財産の範囲については規定されておらず金銭的に価値がある財産は信託財産となります。
代表例は以下の通りです

●現金
●不動産(土地、建物)
●有価証券(株式、国債など)
●動産(自動車、ペットなど)
●債権(貸した金銭の返還請求権など)
●知的財産権(特許権、著作権など)

一方で信託財産に慣れないものもあります。それは下記のとおりです。

●マイナスの財産
●農地
●預金
●年金受給権

以下詳細にお話しします。

マイナスの財産

信託財産に出来るのはプラスの財産に限られます。借金などを信託することは原則できません。

農地

農地の所有権を移転するためには、農業委員会の許可が必要となります(農地法第3条)信託する際に委託者から受託者へ所有権を移転することになるのですが、信託引き受けによる所有権移転について許可が出来ないとされています(農地条第3条2項3号)
もっとも、農地を宅地に転用することができますし(農地法第4条)転用できれば不動産として信託財産にすることはできます。
しかし、再三申し上げているように「農地」を信託財産にすることはなかなか難しい状況であります。

預金

意外と思われるかもしれませんが、預金そのもの(預金債権)を信託財産にすることはできません。
預金とは法的には預金債権です。そして、預金債権には金融機関との間で譲渡が禁止されております。そして、信託とは委託者から受託者へ所有権を移転する、すなわち債権の譲渡をすることと同義でありますので預金の信託は行うことが出来ません。
この場合は委託者が預金をすべておろし、現金化し、受託者に渡し、信託専用の口座に入金することが必要となります。定期預金なども同様の形を取ります。

年金受給権

年金を受給する権利を信託することが出来ません。(国民年金法第24条)
年金受給権は一身専属権とされており、本人だけに帰属する権利となります。一身専属権には生活保護受給県などが挙げられます。

家族信託のメリットとは?

家族信託を行う上でのメリットは大きく分けて3つあります

  • 積極的な資産運用、投資が出来る
  • 判断能力が低下した後でも財産の管理が継続される
  • 委託者の希望通りの財産管理を行うことが出来る

以下詳細にお話しします。

積極的な資産運用、投資が出来る

これは、同じ財産管理の方法として成年後見人とがよく利用されているのですが、成年後見人の行う財産管理とはご本人様の財産を守っていくための管理という意味合いがとても強く、その財産の処分の方法や管理の方法に家庭裁判所が関与してくることがあるくらい厳格なものとなっております。つまり、柔軟にその財産を運用したり投資して財産を増やしていく方向性の財産管理を行うことが出来ません。

一方で家族信託の場合は話が逆です。株式投資や不動産投資などで積極的に資産を運用し増やしていく方向の財産管理を行うことが出来、その利益も受益者が得ることが出来ます。

判断能力が低下した後でも財産の管理が継続される

信託による財産の管理が開始した後は受託者が財産の管理を行います。つまり、委託者が後で認知症などで判断能力が低下したとしても、財産の管理が継続されることになります。もし、認知症になってしまった場合は原則としてご本人様の預金口座が凍結されたりお一人で財産の処分なども行えなくなります。つまり事実上凍結されることになるのですが、家族信託を行っていると受託者名義の口座で預金なども管理されますし、不動産についても受託者が主導になって財産を処分することが出来るのです。

委託者の希望通りの財産管理を行うことが出来る

受託者が主導となって財産管理を行うということになりますと、受託者が勝手に財産を処分したりして委託者の不利益に働くようなことにつながるのではないかという懸念点があります。
家族信託のメリットとしては、その財産の管理方法や収益を誰に渡すのか、そしていつ信託を終了するのかまでを「契約」で細かく取り決めを行うことが出来ます。そして、受託者はその内容に従って財産管理を行うことが出来ますので委託者の希望通りの財産管理を実現することが出来ます。

家族信託のデメリット

家族信託のデメリットとしては次のような点が掲げられます。

  • 意思能力、判断能力がなくなった後に信託が出来ない
  • 税金関係が複雑になる
  • 信託に精通している専門職が少ない
  • 信託を行うのにかかる費用が高額になる
  • 中長期的な目線で契約を締結していく必要がある

以下、詳細にお話しします。

意思能力、判断能力がなくなった後に信託が出来ない

家族信託は「契約」によって成り立つ手続きです。契約であるということは意思能力、判断能力が必要です。つまり、すでに認知症になってしまったあとでは信託契約の締結が出来ないので、結果的に信託を行うことが出来ないということです。

税金関係が複雑になる

信託を行っていくに際し、どのような税金がどれくらいの額かかるのかについては「信託契約の内容」によって大きく変わっていきます。
そのため、税金について精通している税理士等の専門家に相談しながら信託契約の内容を定める必要がございます。

信託に精通している専門職が少ない

専門家に相談した方がいいと上記で述べたのですが、家族信託自体、そのスキームが最近認知されてきたということや、税金関係、手続き関係上非常に複雑なものであるため、家族信託に精通している専門家が少ないことも現状としてございます。
そのため、専門家であればだれでもいいというわけではなく、最先端の財産管理・資産承継の仕組みである家族信託についてきちんとした見識と実務経験がある法律専門職にご相談することが必要です。

信託を行うのにかかる費用が高額になる

相談できる専門家が少ないことや、複雑なスキームであることから、契約を締結するための打ち合わせや書類作成報酬が、通常の手続きより高額になることがほとんどです。
しかし、それはただ高いだけではなく、それだけ家族信託のスキームは非常に複雑なスキームであるということです。
そして、信託は締結するだけではなく、実際に運用していく必要があるため、その運用期間中もずっとサポートしていく必要があるからです。

中長期的な目線で契約を締結していく必要がある

信託契約は、柔軟に契約内容を決めることが出来ます。逆に言うと、相談者の目指す未来によっては信託ではないほうがいいケースもたくさん出てきます。そして、信託を行っていくに際し、例えばどんな財産を信託するのか、どんな方法で財産を管理していくのか、誰に管理してもらうか(もしその人が亡くなった後に誰が財産管理を行っていくか)、誰を受益者になるのか、信託をいつ終了するのか等、中長期的な目線で財産管理について考えていく必要があるのです。

最後に

いかがでしたでしょうか。今回は家族信託のメリット・デメリットについてお話してみました。
信託をどのような目的で利用していくのか、また他にどのような方法があるのかをしっかりと見極め、ご自身やご家族の状況に合った選択をしていくことが大切です。

将来に向けた備えは、早めに検討を始めることで、より安心した生活につながります。
本記事がその一助となれば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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